第107章 あなたにもう一度第二幕(6)
月が浮かぶ前。
「家康さん、こんにちは」
俺は背後から聞こえた声に反応して、首だけ後ろに向ける。そこには相変わらずあどけない顔をした、ひまりが俺の顔を覗きこんでいた。
「……もう、バイト終わったの?」
俺は手に持っていた書物を閉じ、立ち上がる。
「はい!今日は早めに上がらせて貰えて!たまにはおばぁちゃんに夕ご飯作ってあげたくて!」
最近、任せてばかりいたからとひまりは、手に持っていた袋を持ち上げスーパーに行って来た帰りだと話す。
ーーとりあえず、家康公はなるべく彼女の側に居て下さい。その真実というのが何か解るかもしれません。
佐助にそう言われ、まずは落とした物を返そうと出逢った場所に出向くと、男に声を掛けられている所に遭遇し……その流れから帰りが遅くなるバイトがある日は、用心棒をする事に。
元々人懐こい性格のひまり。
最初は遠慮がちだったが、年も離れているせいかそれ程警戒される事もなく、今では他愛のない話が出来る間柄にはなっていた。
「あっ!もし良かったら、家康さんも一緒にどうですか?」
今夜はカレーだし、いつもお世話になっているお礼に。
と、きらきら瞳を輝かせ俺を見上げる。
(そんな顔されたら、断れないし)
それに、昼間学校に通っているひまりと会える時間は限られている為、送り届ける僅かな間ではいつまでも進展しない。そう考えた俺は静かに頷く。
「……なら、お言葉に甘えて」
「ふふっ、あまり期待はしないで下さいね?」
サラサラの髪を揺らしながら微笑む姿を見て、必死に触れたくなる衝動を抑え俺達は歩き出した。