第100章 あなたにもう一度(16)
(信長様視点)
家康が去った後、俺はひまりが里帰りの土産だと言い置いていった金平糖を一つ、口の中に放り込む。
「俺は家康の筆下ろしの相手は知りませんが、お館様はご存知なのでは?」
「……まぁな。そもそも相手を選んだのは俺だ」
それを聞いた秀吉は驚いたように、口を開ける。
「当時の家康は、筋金入りの捻くれ者であったからな……あの時は手を焼いた」
送り込んだ相手に全く興味を持たず、道具のように足らい夜伽を共にするどころか、扱いの悪さにどの女も耐えれず情事を行う前に部屋から飛び出す始末。
その知らせを聞き、激を飛ばしてやろうと出向いたある日の晩……俺達はある女に会った。
暗闇の中。
突然、舞い降りるように木の上から現れた女。
ーーえっと……記憶がないので、名前も何処から来たのかも解りません。
俺はその女が被っていた羽織を取り、月明かりにうっすら照らされた姿を見て……名付けた。
「まるで、天女(てんにょ)だな……なら、今宵から貴様を天女(あまね)と呼ぶことにする」
「え?……あま、ね?」
「行く所がないなら、この離れに住み家康の相手をしろ」
「なっ!!……こんな得体の知れない女、無理です」
「……同盟を組んだ今、俺の命は絶対だ」
俺が、その女に会ったのはそれっきりだ。
家康も独立の準備で昼間は駆け回り、その女の様子を聞く暇もなく月日が過ぎ元服を迎え……そして女は忽然と姿を消した。
(ただ、無事に夜伽は交わしたと報告はあったがな……)
「自分を男にした女も、まともに覚えていないとは……家康は余程の捻くれ者だったみたいですね」
俺はクツクツと笑い、口の中で残り少なくなった金平糖をコロンと舌先で転がす。
「夜伽の報告があった次の日。……あの馬鹿、命が危うくなる程の高熱を出しおってな」
多分、そのせいだろう。