第99章 あなたにもう一度(15)
「………ここは俺が元服前の三ヶ月間を、過ごした場所なんだ」
(え………)
その言葉の意味が解ると、頭が真っ白になりかけ体が無意識に震え出す。家康はそんな私を悲しそうに見つめ、自分の胸に引き寄せると壊れそうになるぐらい凄い力で抱き締めた。
「ひまりが辛い思いをするのが解った上で連れて来た。だから責めてくれてもいい……」
そう話す家康の声が切なくて、胸がぎゅっと掴まれたように苦しくなる。
「ただ包み隠さず話すには、ここに来て思い出すしかなかった」
……でも、やっぱり思い出せない。
「えっ?………思い出せない?」
私が聞き返すと家康は大きく息を吐き、その三ヶ月間の夜の記憶がほとんどない事を話す。
「……夜になると時々、誰かがここに居た記憶だけはある。でもどう過ごしたかも相手の名前も顔も全く覚えていない。あの頃の俺はほんと、周り全員が敵に見えて感情なんか捨ててたからね」
だから天女さんがその相手かと聞かれても、正直解らないと。
「……そんな気もするし、違う気もする。だから、ひまりにどう話したら良いのか解らなかった」
家康は天女さんを竹千代の教育係にしたのは年齢を聞いて決めただけで、若い子を付けるよりも私が安心すると思ったと、話してくれた。
「庭に居たのも偶然。竹千代と約束ごとを交わしてたら、あの人が現れただけで……最初から一緒に居たわけじゃない」
家康はそう言って、真っ直ぐに私を見る。そして後は何が知りたい?と優しい声で聞いてくれた。