第97章 あなたにもう一度(13)
「その人は時々野原に来ては、遠くを見つめていました。最初話しかけても全然反応がなくて、でもある日その人の想い人が遠くに行ってしまった事を知りました。私はその想い人がどんな人なのか勇気を出して聞いてみたら、今まで素っ気なかったのが嘘のように……少しずつ話をしてくれるようになりました」
ひまりちゃんはゆっくりとした口調で、一つ一つ思い出すように口を動かす。
ーーどんな方、ですか?
ーー……危なっかしくて、見てるこっちが落ち着かないぐらい無茶ばっかりする、駄々っ子。
ーーお綺麗な方、ですか?
ーー……一瞬で男を虜にするぐらいね。本人は、無自覚だけど。
ーーいつ戻られるのですか?
ーー……神様が許してくれたら。
ーーえっ!!
ーー……冗談。
「その人が返事をしてくれるのは、その想い人の話だけでした……それなのに私は好きになってしまった」
私はただ涙を堪え、ひまりちゃんの話の続きを聞く。
「無理を承知で私はその人の家に押しかけました。婚約する前にどうしても想いを伝え、思い出が欲しくて……一度だけ抱いて下さいと、お願いをしました。だけど、その人は私の裸を見ても見向きもせず自分の着ていた羽織を被せ……」
一旦区切るように、軽く深呼吸したひまりちゃん。その表情を見た私は何て表現をしたら良いんだろう……とても生き生きとしていた気がする。