第95章 あなたにもう一度(11)
(信長様視点)
(そろそろか……)
俺は脇息に寄りかかり、襖の向こうにもうすぐ現れるであろうひまりの到着を待つ。
昨夜、家康が送ってきた伝達には……一切事情の説明などなく、ただ自分が迎えに行くまで、ひまりを引き止めておいてくれ、と愛想もへったくれもない内容だった。
(事によったら、引き止めるのではなくもう帰してやらんがな)
事情も教えず、ひまりが一人で来るぐらいだ。只の痴話喧嘩ではない事ぐらい、解る。
すると襖の向こうから、この広間に近づいてくる足音を聞き、俺は家臣に襖を開けるように合図を送る。
「わぁっ!……」
「……待っておったぞ」
自分の目の前でいきなり襖が開き、ひまりは驚いて手に持っていた荷物を落とし、その場に腰を抜かす。
「……えっ?待って??」
「どっかの馬鹿が、文を送ってきたからな」
その言葉にひまりは瞳を見開き一瞬表情を曇らせた後、立ち上がり俺の前で正座。そして膝前で指先を揃えるのが見えた。
「ご無沙汰しています。……突然お邪魔してしまい、ごめんなさい」
「……この城はお前の城でもある。謝る必要などない」
俺は寄りかかっていた脇息を横に退け、隣に来るように手招きをすると、ひまりは遠慮がちにちょこんと座る。
「一人で此処まで来るのは、心細かったであろう?労ってやる」
「信長……さ、まっ…」
俺が頭を撫でてやると、たちまちひまりは涙を溢れさせ俯いて肩を震わす。
(家康……覚悟して来い)
俺はただ黙って隣で涙を流すひまりを見つめ、馬鹿の到着を待つ事にした。