第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「すごく美味しかった。ごちそうさまでした」
雑誌にも載ってる、有名な鰻料理のお店。
前に行きたいって話したのを覚えていてくれたみたいで、修一さんが連れて来てくれた。
噂どおり、蒲焼きはフワフワで美味しくて大満足。
ご馳走してくれた彼に、お礼を言う。
「うん、美味かったね。外食もいいけどさ、今度は梨央の手料理食べてみたいな」
「え?何か緊張しちゃうな。でも…うん。また今度」
何度か彼の家にはお邪魔した。
体の関係もある。
でも、手料理はまだ披露していない。
就職した年から一人暮らしはしてるし、普通の家庭料理なら、まあ作れる。
お洒落なものを求められたら無理だけど。
初めての手料理、何を食べてもらおうかな。
それから数日は、そんなことばかり考えてた。
「こんばんは」
「いらっしゃい。あ、ごはんの材料、買ってきたんだ」
「うん。ハンバーグ、どうかな?」
「いいね。期待してる」
次の週末。
私は夕食の材料とともに、彼の家を訪れた。
手を洗い、キッチンを借りて早速料理に取りかかる。
スープに使う野菜をザクザク切って煮込んで、挽き肉を捏ねて…。
段取りを頭に浮かべながら料理を進めていると、隣に修一さんがやってきた。
彼が、黙ってシンクに手を伸ばす。
私が使った包丁、まな板、ボウルなんかを洗っていく。
「修一さん、私が後から洗うからいいよ?」
「シンク汚されるの、嫌なんだよ」