第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
帰ってく奴、二次会だと言って飲みに行く奴。
それを見送りながら、俺も帰り仕度をする。
店の出入口で見送りしてくれる店長や従業員の人たち。
そこに混じって研磨と談笑する梨央ちゃんを見つけた。
「梨央ちゃん」
「あ、てっちゃん。賑やかで楽しそうだったね」
「ありがとな、ケーキ。見た目も味も最高だった。みんなも絶賛してたし」
「梨央ちゃんの作るお菓子はアップルパイが一番美味いと思ってたけど、ケーキも美味しかった」
表情は乏しいものの、研磨も頷く。
「ありがと。研くんは相変わらずアップルパイ好きなんだね。今度実家帰った時、研くんちに持ってくね」
「うん。楽しみ」
「ん~!研くんカワイ…」
研磨の頭の上に手の平を持っていった梨央ちゃんは、そこで動きを止めた。
慌ててパッと手を下ろす。
昔から研磨に抱きついたり、今みてぇに頭をグリグリ撫でようとしたり。
それが研磨と会った時の、梨央ちゃんのお約束なんだけど…。
「?」
「どしたー?梨央ちゃん?」
研磨も不思議そうに梨央ちゃんを見ている。
「だって。仕事中だし…」
気まずそうにそう言う梨央ちゃん。
俺のイタズラ心に火が着く。
「あれあれぇ~?この前 "仕事中"、俺に抱きついて来たのは誰でしたっけぇ?」
「あれは…!ちょっとテンション上がっちゃって、つい…。もうっ、忘れて?」
「忘れらんねーなぁ。あの時の梨央ちゃんの胸の感触がまだ…グェッ…!」
梨央ちゃんの鉄拳が鳩尾に入る。
「変態!」
「クロ最低」
地味にいてぇ…。
仕事中の暴力はアリっすか……?