第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
変態発言は取りあえず謝って、ムスッとする梨央ちゃんを見下ろす。
こんなすぐ近くにいるのにな。
手を伸ばせねぇってのは、もどかしい。
さあ。
梨央ちゃんの前では男の俺は隠さねーと。
作んなきゃな。
"てっちゃん" の顔を。
「バーベキュー、また日にち合わせような。連絡すっから」
「うん。待ってる」
「あ。このカフェさ、店長さんの料理めちゃウマかったから、また来るな」
梨央ちゃんに会いたいっていう不純な考えがゼロとは言えねーけど。
でも、他のメニュー食ってみたいってのも本当。
「はい。またのご来店、お待ちしております」
梨央ちゃんの顔は、満面の笑みに変わった。
店の外に出ると、フワッと春風が通り抜ける。
アルコールの入った体には心地いい。
「黒尾ー。飲み行くだろ?」
「おー。行くか」
いつの間にか研磨はいなくなってる。
逃げたな、あいつ。
「さっきのパティシエの子、あれ、梨央ちゃんな!今度のバーベキュー来るって!」
「木兎さんが強引で断りきれなかったんじゃないですか?」
「"梨央チャン"、カワイソー」
「いやいや、梨央ちゃんノリノリだったって!なあ、黒尾!」
「木兎うるせー」
「酷くね!?」
喧しい木兎と、無気力二人組とで向かう馴染みのバー。
遊歩道の桜の木に目を向ける。
淡いピンクの花は、とうに散ってしまった。
君の笑顔を思い描きながら、今日はもう少しだけ、酔いたい気分になった。