第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
結局、最初に提案してきたドイツは早々に諦めた。
俺の話を参考にしてたら、スペインに興味が移ったらしい。
「あとは友達と相談して決めますね。ありがとうございます、付き合ってもらって」
「いーよ。暇してたし」
テーブルの上のパンフレットやメモ帳を片付けると、フゥッ、と息を吐いて汐里はコーヒーカップを手に取った。
「テツさん。このまま、どっかデート……行きませんか?」
「え?」
「天気もいいし、目の前には可愛い女の子。どうですか?」
ちょっとおどけた調子で、俺を誘う。
そうやってこっち見てくる汐里は、まあ、普通に可愛い。
正直、おととい梨央ちゃんに彼氏がいることを知って、ショックがデカかった。
久しぶりに会った梨央ちゃんに心が揺れて、自分でも驚くほど惹き付けられて、"女"だって意識した。
俺はあの頃みたいなガキじゃねぇ。
梨央ちゃんの隣に並んで歩ける。
ただ好きだとか、一緒にいたいとか、甘いだけの関係じゃなくて。
責任とか将来とか、そんなもんひっくるめた関係を、今の俺なら……。
そう思った直後。
もう、他の男のものだったと思い知る。
あー。
ほんっと、男と女ってのは……。
想いが届かねぇって、思った以上にキツイわ。
汐里も……そんな気持ち抱えてんだよな。
俺は伝票を持って立ち上がった。
「行くか?デート」
汐里は少し驚いた顔で俺を見上げた。
何だよ、その顔。
お前が誘ったんだろ?
「いいんですか?」
「いーよー。どこ行く?」
「あ、じゃあ遊園地どうですか?最恐ジェットコースター乗りたい!」
「俺そういうのは無理でーす。酔っちゃうー」
「弱っ!」
モヤモヤと気持ちは晴れねぇし、タイミングさえ違えば何とかできたんじゃ…なんて。
考えてもしょーもねぇことばっか浮かぶ。
でも。
梨央ちゃんが幸せでいること。
これが一番大事なんじゃねぇのか?
大丈夫。
俺、取り繕うのは上手いから。
この次梨央ちゃんに会う時は、ちゃんとできる。