第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「終電間に合わなくなるから、もう出よっか」
腕時計を見ながら梨央ちゃんが呟く。
ワリカンにしようって言われたけど、男だし、相手は梨央ちゃんだし、カッコつけたいし、俺が会計を済ませて店の外へ。
「ごちそうさまでした。今日は楽しかった」
「俺も」
二人で駅の方角に向かって足を進める。
お互いの職場はこんなに近いのに、駅で会ったことはなかったんだろうか。
俺は…梨央ちゃんを見過ごしてたのかもしれない。
大人の色気を纏った、梨央ちゃんを。
ふと、ヒールの音が止んだ。
「私、ここで」
「ん?電車は?」
「うん。私の家はここから二駅先なんだけど…」
少し口ごもって、梨央ちゃんが俯く。
あ……
わかっちまった…
気がする……。
「彼氏の家が、すぐそこなの」
届いたと思ったら…
君はまた、別の場所に行ってしまった。