第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「てっちゃん仕事は?」
「俺は旅行会社。あ、旅行の際には是非とも我が社を」
そう言って、名刺を差し出す。
営業まがいの俺の姿に、また梨央ちゃんは可笑しそうに笑う。
出会った頃、俺は中一、梨央ちゃんは中三。
半年後には、梨央ちゃんは中学を卒業して高校生に。
俺が高校生になれば、梨央ちゃんはすぐに専門学生に。
俺が大学に入った年、梨央ちゃんは社会人になった。
置かれてる環境はいつまでも交わらなくて、いつも少しだけ前を歩いてた梨央ちゃん。
あの頃、 "二つ歳上" って事実がすげぇ大きなことに思えた。
まるでそれは、壁みたいに。
梨央ちゃんは大人。
俺はそこにはまだ届かない。
そんな風にして線引きしてた。
でも。
お互い社会に出て何年か経験も積んで、同じように目標を見据えながら歩いてて。
今の俺たちの年の差って、全然大したことじゃねーよな?
俺が今ここでその頬に手を伸ばしたって、何らおかしくない。
もっと言えば、その唇に触れたって―――。