第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「お待たせ!」
着替えを済ませ、俺のところに戻ってきた梨央ちゃん。
その姿は、予想に反した。
「……」
「どうしたの?」
「髪……切ったんだ」
「髪?ああ、うん」
出会った頃からずっとロングだった梨央ちゃんの髪は、顎の下辺りで切り揃えられていた。
さっきまでコック帽被ってたから、気づかなかった。
「そんな短いの、初めて見た」
「そうだね。初めてこんなに短くした」
「短いのも似合うな」
「そう?ありがと」
うん、似合ってる。
相変わらず綺麗。
でも、俺の知ってる梨央ちゃんじゃなくなっちまった気がして、少し寂しくなった。
髪型が変わっただけ。
ただそれだけのことなのに。
何だ?この気持ち……。
「行こ?」
「ああ…」
梨央ちゃんに腕を引かれて店を出る。
向かうのは、木兎と飲む時によく行くバー。
二人でこうして歩くのは、梨央ちゃんが引っ越す前の日以来。
チラッと隣を見下ろしてみる。
さっき再会した時は、変わってないな、と思った。
でも、やっぱり少し違う。
髪型だけじゃなくて、服装も。
ベージュのスプリングコートに、膝丈のスカート。
昔はパンツスタイルばっかだった。
それに、化粧直ししたのか?
唇が潤ってる。
最後に会ったのはいつだっけ?
一年?二年?そんくらい前だったはず。
家のそばのコンビニ…だっけ?
あの時は普段着で、化粧っ気もなかった。
当然と言えば当然。
ちょっとコンビニに出てきただけ。
お洒落なんてしねぇよな。
もし、この姿の梨央ちゃんが街中にいても、俺は気づかないかもしれない。