第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
梨央ちゃんは店長の座っていた席に腰を下ろす。
改めて俺たちを交互に見ながら、仕事の話を始める。
「どういったケーキをご希望ですか?」
「今パッと思い付いたんだけど、バレーボールをモチーフにしたケーキってどうかと思って」
俺がそう言えば、少し考えるように視線を上に向ける。
「バレーボールって…黄色と青、だっけ?」
「白、緑、赤もあるよ」
ボールのメーカーは"ミカサ"と"モルテン"の二種類で、梨央ちゃんが思い浮かべてるのはミカサの方。
俺はスマホで画像を検索して、モルテンの方を梨央ちゃんに見せる。
「なるほど。どっちがいいとかある?」
「いや、特に」
「じゃあ、こっちの方がケーキにした時見た目にも綺麗だと思うんだけど…。ちょっと待ってね?」
梨央ちゃんは一端その場を離れると、スケッチブックとペンを持って戻ってきた。
緑と赤と茶色のペンを取り出し、スケッチブックを広げる。
「こういうホールのケーキの上に、チョコで線を描くでしょ?で、このボールのデザインのとおりに、赤の部分はベリー系のソースとか、苺クリーム。緑の部分はキウイのソースか、抹茶のクリームを使うの」
説明を受けながら、木兎もフンフンと頷く。
「それか、立体的にドーム状の形にするのも華やかだと思う。ソースやクリームじゃなくて、フルーツを使っても綺麗だよ。赤は苺とかラズベリー、緑はキウイを敷き詰めるの」
おお…!
そっちのが豪華に見えそうだし、みんなも喜びそうだ。
「それのがいいんじゃね?フルーツ沢山のが派手に見えるし!」
木兎も同じことを思ったようだ。
これに関しては、異論なし。
「えっと…お値段もこちらの方が割高になりますけど…」
少し控えめに窺う梨央ちゃん。
「いいよ!俺が祝儀代わりに出すから!」
「じゃあ、こちらのデザインのケーキをご用意しますね」
仕事の顔を見せた梨央ちゃんは、ペンを走らせてメモをとった後、ノートを閉じた。