第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「梨央ちゃん、元気そうだね」
俺が必死に平静を装ってるなんて、気づきもしないんだろうな、キミは。
「うん、元気だよ!ここでてっちゃんに会えるなんて思わなかったなぁ。店長に聞いたけど、結婚のお祝いなんだって?」
「そうそう。高校の後輩の。ちょうど今ケーキのこと聞いてて…」
そこで、店長に目を向ける。
彼は驚いたように俺たちを見比べた。
「武田さん、黒尾さんと知り合いだったの?」
「はい、友達なんです。すいません、何かテンション上がっちゃって、つい…」
そのやり取りを聞きながら座り直そうとすると、ニヤニヤした木兎と目が合う。
これは……メンドクセ。
無視しとこ。
無言で椅子に腰を下ろしシカトを決め込むつもりが、俺の顔を覗き込んでそれを阻止してくる。
「綺麗な人じゃん?俺も仲良くしたーい!」
そう言ってこいつは、すかさず梨央ちゃんの目の前に手の平を差し出す。
「俺、黒尾の親友で木兎光太郎っていいます。よろしくお願いします!」
「あ、武田梨央です。ここのパティシエしてます。こちらこそ、よろしくお願いします」
木兎は両手で梨央ちゃんの手を握り、ブンブンそれを振っている。
木兎の手に包み込まれる、梨央ちゃんの小さな手。
何かチリッと嫌な感覚がした。
「じゃあ料理と飲み物のことは決まったし。武田さん、ケーキのご相談に乗って差し上げて?」
「はい」
店長は俺たちに会釈すると、そこで席を外した。