第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
そう口にすれば、一瞬間を置いて俺に目を向ける。
「そうでしょ?そう思う?」
さっきの影を落とした瞳を隠すように、梨央ちゃんは努めて明るく、前のめりで俺に詰め寄った。
「思うね。バカだねー、その男。俺がもう少し大人だったら、梨央ちゃんの彼氏に立候補するのに」
「あら。てっちゃんにそんなこと言ってもらえるなんて、光栄です」
返ってきたのは、少しおどけた言葉。
うーん…。まるっきり冗談ってワケでもないんだけどね。
ま、梨央ちゃんはそんなこと夢にも思わねーんだろうな。
「ありがとね。何か元気出た」
バレンタインに失恋して、お父さん亡くして、悲しみに浸る間もなく身辺の整理に追われて。
俺なんかが元気にしてやれたとは思えねぇけど。
梨央ちゃんが笑うから、俺も小さく笑ってみた。
そんなタイミングで、梨央ちゃんお薦めのフォンダン・ショコラがやってきた。
ドーム状のブラウンの上に、白い粉砂糖。
脇にはホイップクリーム。
「へぇ。ウマそう」
「でしょ?食べてみて?」
「いただきます」
フォークでドームを割ると、中からトロッと流れ出すチョコレート。
ひと口食べてみれば、苦味と甘さを入り混ぜたショコラが舌を刺激した。
「うん、確かに。うめーわ。舌が飛び出そう」
「あはは。舌が?目玉じゃなくて?」
このセリフ、さっきアナタが言ったんですけど。
マカロンを食った時みたいな幸せそうな顔をして、梨央ちゃんもそれを食べ進める。
「自分でもこういうの、作れるんじゃねぇの?」
「作れるけど…私はまだまだ修行中だもん」