第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「お母さんは、最期までお父さんには会わなかった」
「そっか…」
「でも私にとっては父親だから、お別れしたいなら行ってらっしゃい、って。で、お葬式も行って、ちゃんとお別れしてきた」
「お父さん…嬉しかったんじゃね?」
梨央ちゃんは俺を見て小さく頷いた。
「ずっと会ってなかったの。お父さんを許せなかった。好きだった分、傷つけられた。でも一番の理由は、お母さんを裏切るような気がしてたから…」
お父さんとお母さんの間で、俺なんかが想像できない程の葛藤があったんだろうな。
転校したきた、あの頃から。
それなのに、何でいつも笑顔でいられたんだろう。
俺にも研磨にも優しくて、明るくて。
強い人なのか、弱さを隠すのが上手い人なのか…。
本当の梨央ちゃんは…どっちだ…?
「最期に会いに行って良かったと思う。あの日、てっちゃんがいてくれたおかげ」
俺を見て、ふんわりと笑った。
いつもの梨央ちゃんの笑顔だ。
「あ、そうだ。ちょい待ってて」
危ね。忘れるとこだった。
リビングを出て階段を昇る。
手にしたのは自分の部屋に置いてある、カラフルなアレ。
その箱を持って、またリビングへ。
「はい。ガトーショコラのお返し」
ホワイトデーは過ぎちまったし、会えるかどうかもわかんなかったけど。
一応、買っておいて良かった。
梨央ちゃんにそれを差し出すと、びっくりした顔で俺を見る。
「ありがとう。てっちゃんて本当マメだね」
「当然です」
「チョコくれた子、みんなにお返ししてるの?」
「去年までは。今年は梨央ちゃんだけ」
「え?」
「だって卒業しちゃっただろ?学校の子はお返しできねーもん」
告白と一緒に渡してくれる子のチョコは、基本受け取らない。
義理なら返してたけど、今年は無理。
だから、梨央ちゃんにだけ。