第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
こんな風に触れたのは、もちろん初めて。
俺に寄り掛かるようにして、体を預けてくる梨央ちゃん。
どうしたら少しでも安らげる?
髪を撫でたり、背中をさすったり。
思い付くことはしてみるけど、慰めになってんのかはわからない。
でも、梨央ちゃんが胸の中にいる間は、俺がこの腕で包んでやるから。
震えていた肩は、次第に落ち着きを取り戻す。
俺の胸から顔を離して、梨央ちゃんは呟く。
「ごめんね…。もう、大丈夫…」
「ああ…」
離れていく体温が、少しだけ寂しい。
赤い目をしてるのに、無理に笑ってる。
また抱き締めたくなったけど、グッと堪える。
「上がってよ」
「うん。お邪魔します」
リビングに案内して、ソファーに座ってもらう。
「コーヒーでいい?」
「ありがと」
「引っ越し、いつだっけ?」
「明日…。ごめんね、ずっと連絡できなくて」
「いいって。大変だったろ?」
梨央ちゃんの前にコーヒーを出して、俺も隣に腰を沈める。
「お通夜とお葬式に出て、引っ越しの準備もあったからバタバタしてて…」
「うん」
「あの日てっちゃんがいてくれなかったら、私一人でオロオロしてたと思う。お父さんの最期にも、間に合わなかった。本当にありがとう」
「いや……。……お母さんは?」
梨央ちゃんはコーヒーをひと口含んだあと、カップをソーサーに戻してひと呼吸置く。