第15章 【拾弐】時透&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)
「──……杏寿郎、さん」
恐る恐る、縋るように舌を転がすと、杏寿郎さんは俺を見据えてゆっくりと眦を緩めた。暗澹たる雲間を引き裂いて差し込む光芒のような、力強いようでいて穏やかな微笑み。
多くの思慮を兼ね備えて寄り添う思兼神が手を差し出しているように見えるのは、先刻の空想ゆえか。寄り添って理解を示す駘蕩とした気配に、彼が霞柱殿へ集中するまでの僅かな間だけ暫し見惚れる。公私を忘れて名を呼んでしまった失態に、気が付かないほどに。
「先に言っておこう、時透。俺も悲鳴嶼同様、一対四の模擬試合には反対だ。俺と不死川二人を相手にした時でも、名前は手心を必要とした。覚悟が追い付かない彼をこれ以上追い詰めても、君の望む『かるら』とやらは手に入らない」
「でも、僕らが本気を出した方が岩注連さんにも都合が良いのは確かだ。柱合会議で悲鳴嶼さんも言ってたじゃないですか。全力の型を仕込む事が重要だ、って」
「うむ。確かに言ったな」
「空蝉に信憑性があるなら、岩注連さんの中には既に後輩三人分の呼吸と、水、蛇、恋、蟲の呼吸が仕込まれてる。もしかしたらもっとかも。これだけの呼吸を一度に扱える人を相手にする経験なんて今後無いことです。岩注連さんが評判通りの『迦楼羅』なら、僕達の心拍数も体温も、限界まで引き上げてくれる。煉獄さんも、これで興味が湧いたんじゃないですか?」
霞柱殿の言い分が、明らかな二律背反へと踏み込んだ。空蝉の真偽を疑うことを開戦の口実としながら、一方で、俺に多種の呼吸が根付いていることを前提とし、杏寿郎さんの揺さぶりに掛かっている。
論理の整合性を投げ打ってでも、俺という存在を白日の下へ曝け出させんとする執拗な熱。だが、その強引な二枚舌こそが、怜悧であった彼の言辞に致命的な綻びを生じさせていた。
焦燥か、或いは拭いきれない好奇心の暴走か。それとも掻き乱した先にこそ、霞柱殿が示したい真実があるのか。長らく探っていた違和感の正体が掴めそうな気がする。
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