第15章 【拾弐】時透&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)
「興味がある事は認めよう。剣士として、そんな贅沢な状況は無視出来ない。だが、名前の気持ちも無視出来ない。今この場で必要なことは、我々の興味を満たすことでは無く、彼が安定した精神で呼吸を仕込むことに尽きる。優先順位を間違えない事だ」
「…………」
軸の一貫性を失った少年を、杏寿郎さんの毅然とした声が真向から両断した途端、とうとう少年の口元から三日月が消えた。肩を掴んでいた掌を離した流れで、己の細い顎を撫で、霜で凍てついたままの睫毛を伏せたかと思えば、不自然な長考に入る。
ゆったりとした沈黙に痺れを切らしたのは、顳顬を脈打たせる風柱殿だった。腕を組み、不機嫌そうに脚の爪先を踏み鳴らす姿は感情の表出を全く抑え込もうとしていない。それもそうだ、話し込み過ぎた。
「おいィ、長ったらしい無駄話は終わったのかよォ」
低い恫喝は、杏寿郎さんの柔らかな介入と異なる、氷が砕けるような鋭さで場を割り裂いた。しかし、霞柱殿はその威圧を柳に風と受け流し、今までの緊迫した遣り取りなど無かったかのように、あっけらかんと顔を上げる。
「……うん、話は終わりました。煉獄さんの言う通り、俺はちょっと急ぎ過ぎたみたいです。でも、最後に決めるのは僕達の話を聞いた彼本人」
「え……」
吐いた白煙の息が混じるほどの至近距離に、霞柱殿の端麗な顔立ちが迫る。動体視力に絶対の自信が有った元忍の目を欺き、信じられないほど静かな歩法で一気に接近された。未だ剥き出しの俺の胸元へ顔を埋めるのではないかという程に身を乗り出して、彼は呪いのように囁いた。
「ね。"名前"さん?」
第十二話 終わり