
第15章 【拾弐】時透&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)

「悲鳴嶼さん、不死川さん、煉獄さん。僕から提案があります」
「……待って下さい、霞柱──」
「僕達が血の滲む様な努力を重ねて習得してきた呼吸を、見ただけで扱えるなんて未だに半信半疑なんです。本当に空蝉とやらがしっかり機能するのか、確かめたい」
「──殿……」
今更、何を。一気に吹き出して背筋を伝っていく大粒の汗など、単なる重ね着のせいであって欲しい。冷静に現実を見据える理性が、内実を外因に転嫁しなければ虚勢も張れない己を嗤笑していると知りながら、だ。焦燥に駆られた不覚だとは決して認めたくなかった。
(ッ落ち着け……、先ずは落ち着け……)
空蝉の特性と機能性については、俺が離席していた柱合会議の前哨段階で、既に悲鳴嶼が語り尽くしたとばかり思っていたが、見当違いだったのか。だからその後に俺が広間へ足を踏み入れた瞬間、好奇心溢れた視線を突き刺してきたのではないのか。
霜を履んで堅氷至る──初期の危険な兆しに気づいた時点で対処することの重要性を説く諺が脳裏を掠める。霞柱殿ほど怜悧な性質を崩さない方ならば、必ずその場で追求を終えているに違いないのに。
(一度は得心した筈の事柄をこの段階になって疑い直し、その疑いを画期的に晴らす提案を示そうとしている。……そんなもん絶対に禄な事にならないじゃねぇかッ!!)
上意の決定は下達にとっての絶対だが、ひとひらとて理解の余地が無い命令ならば徹底的な抵抗を辞さない。例えば「命を投げ出せ」だとか「無条件で尽くせ」だとか。そんな理不尽に、俺はもう屈さない。
上意が圧政を布いてきた歴史が下達の『諫奏』という行為を生んだように、諌めるという、今の俺に出来る唯一最大の反撃手段が有る限りは足掻かせて貰おう。悲鳴嶼の教えに真向かいから背く事になるが、革帯を返上する背信行為に比べたら可愛いものなのだから、この際、口応えくらい許して頂かなくては。
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「岩注連さんと僕たち四人が戦うというのはどうかな。刻も惜しいし」
「……ッは、」
両手の指を立てて『一対四』の構図を視覚化させた霞柱殿は、三日月型の口角を深めながら同意を求めて俺達を見回した。間髪入れずに悲鳴嶼の固い声が「賛成しない。無謀だ」と投げられた事から、風向きは此方にある。だというのに何故か少年の瞳は輝きを失わない。まるで『提案が必ず実現される確信』が有るかのようだった。
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