第15章 【拾弐】時透&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)
少年は、しっかり立ち上がりながらも力無く笑った。自らの欠落や状況を受け入れている、或いはそれ以上の好転を見込めずに希望を諦めたような、寂しさの混じった微笑みだった。
不自然なまでに印象が二転三転する子だ。態度や表情などの表面化している部分も然る事乍ら、気魄の形状と情動すらも二分化させ、且つ変転を繰り返している。まるで一つの器に二つの意志が宿っているかのようだった。
「記憶を取り戻した今なら、貴方と適切に向き合える──そう思っていたんだけど」
「記憶が……無かったんですか……」
「うん。鬼殺隊に入る前の記憶が最近までぼんやりしてた。今は大丈夫だよ、ちゃんと全部、ここにあるから」
少年らしいほっそりとした指先が、体型を隠すほど大きな隊服の上から自身の胸元をそっと抑えている。『ここ』と言った部分が何にも侵されてはならない神聖さを秘めているのが嫌というほど伝わってきた。
そんな優しい仕草に畏怖の念を抱くのは、無くした記憶も取り戻せない、持たざる俺の僻み故か。以前にも増して近寄りがたく思うのは、やはり先刻の『人情味に溢れた視線』の正体が掴めない事も影響しているのかもしれない。
(俺に無いものを持ちながら、俺が持っていないものを、俺に求めてる……。この矛盾に対処出来る、術がねぇよ……)
瞠目結舌する俺を他所に、悠々と「漆黒の迦楼羅の根源に触れたいな。貴方も僕と同じであれば良い。同じなら分かり合える筈だと思ってるよ」と微笑み続けていた少年は、再び視線を交わした瞬間、唇を深い三日月の形に拵え直した。
***
その直後、霞柱殿は腰ベルトに日輪刀を差し込みながら悲鳴嶼を見上げて「そろそろ始めませんか」と、模擬試合を促す発言をする。居心地の悪い話が何時まで続くのかと、出口の見えない隧道を進んでいる心地だったばかりに、あっさりと光明が見えて虚を突かれてしまう。まぁ追及するだけ首が締まるのは俺だけの気がするので、大人しく閉口する事にした。
→