• テキストサイズ

日章旗のデューズオフ

第15章 【拾弐】時透&煉獄(鬼滅/最強最弱な隊士)



如何ともし難い表情筋を落ち着かせながら、眦の涙を指先で払いつつ静心を取り戻していると、頃合いを見計らっていたかのように霞柱殿が「ねぇ、岩注連さん」と不躾に俺を呼んだ。
先程までの年嵩を思わせる凛とした声音から一転した等身大の幼い調子に、振り返るべきか逡巡する。振り返ってしまえば、今し方得られた安らぎが失われる予感がしたからだ。
部下から自分本位な逆捩──揚げ足取りに近い行為──を食らわされた先刻の今にも関わらず、素知らぬ顔で話し掛ける余裕があるとは、儚げな見た目の割に豪胆で恐れ入る。観念したように大息を吐いて、顎を撫でた後、胡乱げに頚を回して顳顬を向けた。
「……はい」
「岩注連さんってさ」
「……」
「評判と違って随分と人懐っこいんだね」
「…………評、判」
低く鸚鵡返ししながらも、『傲慢な継子』という切っても切り離せない悪評を即座に思い起こしていた。岩注連という蔑称が浸透した際に流布された例の悪評だ。水を差すとはこういう事を言うんだろう。部下を安んじる心が霞柱殿には無いのだろうか。すかさず悲鳴嶼が鋭い声で少年を咎めてくれたが、水縹色を揺らす彼は予想だにしない台詞で完全なる封殺を仕掛けてきた。
「時透」
「勘違いしないで下さい。今お二人が頭に思い浮かべてるものじゃないほうを僕は言ってます。『漆黒の迦楼羅』、それがもう一つの岩注連さんの評判です」
「し、しっこくのかるらぁ……?」
素っ頓狂な声を上げながら反射的に振り仰いだ先では、霞柱殿が日輪刀を片手に膝を立てているところであった。光を撥ねさせて熱を散らす琥珀糖のような瞳、痺れる程に寒さを増す冬の空気のせいで霜が降りている長い睫毛が、態度の割に繊細で、暫し見蕩れてしまった。
さて曰く。──仏に帰依する悲鳴嶼の傍らで鷲型面頬を被った姿は迦楼羅の如く。毒蛇を喰らうかのように悪鬼を貪って屠り去る神鳥の化身たる姿は迦楼羅の如く。黒衣黒刀を閃かせて一騎当千を果たす姿は百戦錬磨の迦楼羅が如し。孤高たる姿を目にした者は極めて少ないが、一目見た果報者は口を揃えてそう評した、と。

/ 202ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp