第14章 【拾壱】岩&風&霞(鬼滅/最強最弱な隊士)
(この人の中で俺はまだ、疑うべき子どもの内輪に在る人間なんだな……。だから守るけど、でも信じる事が難しい……)
厳かな白檀の香りに包まれながら顔を上げると、悲鳴嶼も俺を見下ろしていた。見えていない筈なのに見えているような立ち居振る舞いから成る不思議な視線に射抜かれると、彼が無意識に張り巡らせている分厚い障壁が少しだけ取り払われた気がして、やはり『諦めたくない』と強く思う。
諦めたくないのなら兎にも角にも行動するしかない。形式知で推し量れない造詣の深い通説も、定石とされる善き会話も通用しないのなら、疑う余地もないほど簡潔に分かり易く噛み砕いた無防備な聲を晒け出してみたらどうだろう。
不遜だとか言い訳をしている暇などない。考えて考えて当たり障りない言葉を紡いでも結局疑われてしまうなら、素直になった方が割り切れるのではないか。この感情に嘘偽りなしと胸を張れるのではないか。行動してみるに限る。俺の慕わしさに打算が無いのなら。
ごくり、と煩いくらいに喉を鳴らしながら唾液を嚥下して、悲鳴嶼の羽織の袷をぎゅっと握り締める。南無阿弥陀仏と描かれた文字が物理的に短縮されて隠れるくらい皺を寄せた。
「あのっ」
「……」
「俺を守ってくれた……子どもの時の約束を守ってくれた、貴方が……大好き、です」
「……」
――本音を口にした途端、身体が烈火と燃え上がる。でも、これがずっとずっと言いたかった。伝えたかった。知って欲しかった。疑われたくなかった。悲鳴嶼が掛け替えの無い存在なのだと分かって貰わなければ気が済まなかった。
昂る熱を孕む呼気が、凍てつく冬の空気へ漂う様子を目端に捉えながら、存外震えた声に、漸く己の中に潜む焦がれた気持ちを自覚する。俺は、こんなにも彼に気持ちをぶつけてしまいたかったのか。
「せめて俺の気持ちだけは……疑わないで欲しい」
「……」
「悲鳴嶼さ――」
「そこまでだ」
「――……」
「……私の室に来るのだろう。その時にじっくり刻を掛けて話せば良い。今は都合が悪い。そこまでにしておきなさい」
「!」
少々乱暴な力加減で念珠を揉んだ彼は――このような時でありながら脳内に伊之助命名の奇天烈な渾名が浮かんだが、強引に霧散させた――合流を促す言の葉を紡ぎつつ、風柱殿達の方へと歩を進める為に背を向けた。
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