
第14章 【拾壱】岩&風&霞(鬼滅/最強最弱な隊士)

悲鳴嶼は訪問の可否に対しても話し合いの是非に対しても返答をしてくれなかった。それでも彼にとって決定的に避けられない重要な単語を言い紡ぐたび、身に纏う気魄をびくりびくりと拍動させたので、意識してくれている事は確かだった。
「……指先が冷えている。先ずは身体を温めなさい」
「ッ……」
話題を逸らす口実に使われたのは分かっているのに、この身を労られると途端に心が蕩けてゆく。ましてや頬を撫でられて体温を分け与えられてしまえば、足腰が抜けて頽れないよう、体幹に力を込めなければならないほどだ。
俺達の間に生じようとしている莫迦げた罅隙など意図も容易く埋めてしまう――そう思っているのは俺だけだとしても――この熱が、この慈悲が、注がれない将来など否定したい。どうしたって諦めたくない。その気持ちが俺に大胆な発言を許す。
「悲鳴嶼さんに触れて貰えるの…………嬉しいです」
「……」
言葉を選んだ。本当は「好きです」と言いたかったが、流石に不遜だと自戒して堪える。それでも悲鳴嶼には大いに響いたらしく、先程よりも分かり易く態度を軟化させた。対面した俺しか分からないくらいの緩やかな笑みを浮かべた彼は、頬を覆っていた掌を頭へ滑らせ、雪を欺く髪を優しく梳いてくれた。
「そうか」
「……」
「私は……、お前に疎まれていないと思って良いのか」
「え……? 当然ですよ、疎むわけないじゃないですか」
「それだけの事をお前に強いてきた自覚が有るから言っている。しかし、過去を弁解しようとは思わない。私情を挟んでお前を縛り付け、傍に置き続けた事に後悔はないからだ」
「……」
「これからも己の判断と行動を、疑いはしない」
「……」
最後の言葉が『信じられるのは己だけ』という趣旨の発言だとしたら、彼の猜疑心も筋金入りと言ったところか。今度は俺が絶句の末に息を飲んでいると、悲鳴嶼は姿勢を正してから自らの羽織を脱いで寄越した。
有無を言わさず身体に巻き付けようとしてくるので「汚してしまいます」と固辞するものの「着なさい」と強く命じられてしまえば、それ以上の抵抗は躊躇われた。
(……上手く、いかないなぁ)
一進一退の距離感を保ち続けよと神仏様辺りに定められているのだろうか。薄氷の上を歩むような心地が常に胸を蝕み、何時まで経っても安寧が得られない。良好な関係を築けたと思えた瞬間に足元を掬われて急転直下に落ちてゆく。
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