第14章 【拾壱】岩&風&霞(鬼滅/最強最弱な隊士)
「……っふう」
戦いに炙り立てられて火照った肌が、冷水で引き締まっていく感覚は気持ちが良い。気分も楽になる。任務後に立ち寄る藤の花の家紋の家でも、風呂を頂く前に井戸水を被らせて貰う事が多い。地下から汲み上げたばかりの水は臓腑が縮み上がるほど冷たいけれど、堪らなく心地良かった。
(…………獪岳、元気にしてっかな)
ふと、それを指して「変な奴」と鰾膠無く吐き捨て、怪訝に睨め付けてきた奴の事を思い出す。藤の花の家で居合わせた無愛想な隊士だった。一度目は偶然、二度目も偶然だったが、三度目ともなると獪岳がわざわざ俺の居る家を探し出して立ち寄ってくれた。
(階級がひとつ上がって、初めて隊を率いる形で任務に出ると誇らしげに教えてくれたっけな。それから一度も顔を見ていない……無事だと良いけど)
獪岳はいつも不満そうだった。何かが常に物足りないという顔をするし、言葉の端々に棘が有って自分以外の人間が莫迦だと思っているのが良く分かり、現世も幽世も須らく憎らしいといった態度をとる。
初めこそ「こういう奴が鴉を使役してまで嫌味を伝言するんだろうな」と、獪岳を媒体にして過去の古傷を自ら抉っては憔悴していたけれど、奴自身、不満げな割に陰口を叩かないし無闇に声も荒げない。かといって有益に論う事もしなかったが。
少なくとも俺の前ではそうだったから、再会を果たした時もそこまで手酷い印象を抱かなかった。但し、雷の呼吸の継承権を分けたという弟弟子の話をする時だけ感情的になった事を覚えている。今思えば其れこそが我妻善逸だったのだろう。「腰抜けのカス野郎」とか何とか扱き下ろしていたっけ。
まぁ確かに、初めて岩柱邸を訪れた我妻は悲鳴嶼の課す稽古内容を聞いただけで泡を吹いて卒倒していたから、獪岳の言いたい事がちょっと分かってしまったが。しかしながら師事する育手を同じくする相弟子がそこまで憎いものか。
(俺ですら玄弥に嫉妬こそすれ、憎悪は流石に……。しのぶにもカナエさんにも憎しみなんて……)
何より俺を困惑させたのは、彼奴の評価ほど我妻自身が『腰抜けのカス野郎』では無かった事だ。卒倒した後の我妻は別人と錯覚するほどに纏う雰囲気を一変させ、俺が止める間もなく雷の呼吸を扱って邸から飛び出して行ったのだが、その速度、その威力は尋常ではなかった。
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