第6章 真珠を量る女(ロー)
「・・・まだ施術中よ」
「なら、早く終わらせろ」
「私は娼婦じゃない。性欲がありあまってるなら他をあたって」
ムッとして顔を背けたというのに、ローは身体を起こしながらクスクスと笑っている。
「ああ、悪かった・・・言葉が足りなかったな。お前を、抱きたい」
「言い直しても無駄。娼館にでも行きなさいよ」
ジッと見つめてくる扇情的な視線から逃げ、針に墨を足そうとした瞬間、その手を止めるようにローの手が重なった。
「今更どうした」
初めて身体を重ねた日から、ローに墨入れを施したあとは必ず、情事に発展していた。
断じて、ローはクレイオを抱くため堀り場に足しげく通っていたわけではないし、クレイオもローに抱かれることを期待しながら彫っていたわけではない。
あくまで“彫り師と客”という関係を保っていた。
「お前のその目がいい」
針が皮膚を貫く時に感じる、手の温もり。
時々首筋に感じる、息遣い。
皮膚の魅力を最大限に生かそうとする、真剣なまなざし。
クレイオの一つ一つが、ローの興奮を煽っていく。
神経に近い箇所を刺された時、僅かに漏れる声。
痛みに耐えるため、悩ましげに寄せられた眉根。
墨がどこまで皮膚に入っているかを確認する、真剣なまなざし。
ローの一つ一つが、クレイオの本能を刺激していく。
そして、その日の施術が終わるや否や、二人の理性は風船が破裂するように吹き飛び、強く求め合っていた。
「・・・最後の日くらい、“彫り師”のままで終わらせてよ」
だが今日のクレイオはローの手を払うと、離れろとばかりに身体を押し戻す。
「“関係を持った数多くの女の一人”としてじゃなく、彫り師として貴方と別れたい」
それは“恋人”にはなれない女の、最後のプライドだった。