第6章 真珠を量る女(ロー)
背中に髑髏マークを彫り始めてから1週間。
ローがクレイオのもとに通うのも、今日が最後になろうとしていた。
「あとは右目を潰したら終わりよ」
ローの刺青は、墨だけの単色。
だからこそ“濃淡”が作品の出来栄えを決める。
「ホント・・・毎日、よく我慢したと思う」
ノミを肌に突き刺しながら、ねぎらいの言葉をかけるクレイオは、どこか寂しそうにも見えた。
「仲間達がそろそろ我慢の限界なんだ・・・明日開かれる人間オークションを見物したらすぐに出航できるよう、今日中に完成させておきたかったからな」
彼は海賊。
とっくに船のコーティングは終わっているし、刺青が完成すればこの島に用はない。
「・・・なんで、そんなに人間オークションに興味があるの?」
「言ったろ・・・それは“個人的な問題”だ」
ヒューマンショップを経営する男とローの間には、深すぎる因縁が存在している。
今はまだ、絶対に顔を合わせたくない相手だが、彼にとって重要なビジネスの一つである人身売買の実態を見ておくのは悪くない。
それに、運が良ければ“収穫”もあるかもしれない。
「結局、私は貴方という人がよく分からないまま終わりそう」
面積にすれば、コイン1枚分。
これに色を入れ終えたら、あとは消毒クリームを塗って包帯を巻くだけ。
それだけの時間では、まだ知らない彼を知ることは不可能だ。
ローはうつ伏せの状態から上半身を反り起こすと、クレイオを見上げた。
「なんだ、そのツラは。おれもお前も、必要なだけの素性は明かしたはずだがな」
「・・・必要なだけとは・・・?」
すると、大きな右手がクレイオの頬を包み、自分の方に顔を引き寄せた。
そして唇同士が触れる寸前のところでピタリと止め、口の両端を上げる。
「“この距離”が許されるぐらいは、互いを知っているということだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「抱きてェな」
そう言いながら、尖った舌の先でクレイオの下唇を舐めた。