第6章 真珠を量る女(ロー)
男の舌が肌を這う。
初めての経験に、緊張と恐怖で身体を固くしていると、ローは眉根を寄せながらクレイオを見た。
「今からそんなにガチガチになっていたら、本番は痛ェだけだぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
これだけの刺青を入れたのだから、痛みには慣れているはず。
おそらく、クレイオが戦っているのは痛みに対する恐怖ではないのだろう。
「・・・力を抜け。なんなら麻酔をかけてやろうか?」
「そんな情けないことはしないッ」
「なら、深呼吸でもしてろ。こっちも痛ェのはご免だ」
優しくキスでもすれば、安心させてやることができるのだろうか。
素直になれず、ひねくれた言葉しか言えない自分に、ローは少しだけ嫌気がさした。
伝えたいことを伝えられないまま、永遠に会うことができなくなった人もいるというのに・・・
おれも全く成長してねェな・・・と、自嘲気味に笑う。
「緊張するのは仕方ねェ。不安なのも分かる」
「・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫だ、死にはしない。お前はただ、おれを信じることに集中しろ」
クレイオはローを見上げながら小さく頷いた。
さすが、気の強い女だ。
もう不安の色はほとんどない。
「私が貴方に抱きつこうとしたら、その時は両手を縛り付けて」
「なんだ、最初から随分とハードなことを要求するじゃねェか。大歓迎だがな」
「何を勘違いしているの? 貴方の背中に手を回して、彫ったばかりの刺青を台無しにしたくないだけ」
まだ消毒もしていないのに・・・と眉をひそめている。
こんな状況になっても職人気質は崩さないクレイオに、ローは軽く噴出した。
「抱きつかれるのも悪くねェが・・・その時は手を縛らせてもらおう」
海賊といえど、身長が高く、顔立ちも良いローに言い寄る女性は少なくない。
初体験も早かったし、それなりに経験豊富だが、一つだけしたことのないことがあった。
それは、ある短い言葉を伝えること。
人によっては、とても簡単なことかもしれない。
だが、ローにとっては何よりも難しいことだった。