第6章 真珠を量る女(ロー)
ローはもう一度クレイオを仰向けに寝かせると、色に埋め尽くされた肌を見つめた。
「統一感のねェ刺青だな。世界一の彫り師には相応しくねェ」
ムラになっている部分がある。
隣の色と混ざって滲んでいる部分もある。
その一つ一つに、痛みに堪えながら震える手で針を刺す彼女の姿が目に浮かんでくる。
「───おれの能力で皮膚をもとに戻すことができるぞ。若い女の死体さえありゃいい」
死の外科医は微笑みながら、彫り師の顔をなぞるように撫でた。
「お前が望むならば」
場所によって技術も、絵柄も違う。
その混沌とした肌絵を見ていると、不思議と本能が刺激され、面妖な魅力に引きずり込まれていく。
「なァ・・・肌の綺麗な女を一人、殺してこようか?」
するとクレイオはローが自分にそうしたように相手の頬を撫でると、口の両端を上げた。
「この刺青を否定する人は、私の生き様も否定しているということ。そういう男には興味がない」
下手くそな絵も、滲んだ色も。
10年かけて彫ってきた一つ一つ全てが、彫り師として生きてきた証。
「そうか・・・」
ローは静かに頷くと、薄紫色の花が描かれた左の乳房を摘み取るように、手の平で包み込んだ。
「さっきおれは、他人の身体を見て美しいと思うような人間じゃねェと言ったが、撤回しよう」
“作品”として見れば、三流の彫り師の方がまともな刺青を彫れるだろう。
しかし、この身体を見て“醜い”とはどうしても思えなかった。
「お前の身体は美しい」
患者の身体を切り刻みながら薄ら笑いを浮かべるローと、同じ感覚を持つ人間は多くない。
それでもクレイオは、何よりの称賛とばかりに嬉しそうに微笑んだ。
「お前が誇る技術・・・お前が秘める覚悟・・・」
イビツな形をした真珠が、類まれな輝きを放つように・・・
「お前の持つ全てが、美しいと思う」
ローが敬意を払う人間は数少ないが、彼女は間違いなくその一人。
敬愛する人のためなら、どこまでも残忍になることができる。
そんな、自らを破滅に向かわせる危うさも併せ持つ死の外科医は、ゆっくりと彫り師に唇を寄せていった。