第6章 真珠を量る女(ロー)
女の美しい肌を称賛する言葉に、“白く透き通るような肌”というものがある。
しかしクレイオの肌には“白い”部分も、“透き通るような”部分も、一切無かった。
「───ここまで刺青を入れている女を、見たことがないでしょう?」
鎖骨から下、肩から肘までの衣服で隠れる皮膚は隙間なく色で埋め尽くされ、素肌は少しも残っていなかった。
乳房には乳輪を花弁に見立てた大輪の花、
みぞおちから臍にかけては絡み合う二匹の鯉、
右の脇腹には鳳凰、
左の脇腹には艶やかなキモノを着ているワノ国の花魁・・・
絵と絵の合間も、小さな文様やグラデーションで埋められている。
彫り師なのだから、クレイオの身体にも刺青があって不思議ではない。
だがこれは、ローの想像と理解の範疇を遥かに越えていた。
クレイオは言葉を失っているローを見上げ、力なく微笑む。
「私は彫り師になるため、自分の身体を練習台にした」
「これは全部・・・お前が自分で入れたものなのか・・・?」
「そう・・・完璧にノミを使いこなせるようになるまで、先代ホリヨシは他人に針を刺すことを許してくれなかった」
許されたのは、自分の肉体と動物の死骸のみ。
「和彫によって他人に与える痛み、失敗した時の代償を、自分の皮膚を犠牲にして学ぶのが私達の伝統なの」
統一感のない刺青で埋め尽くされた肌は、決して美しいものではない。
だがそこには、二度と引き返すことができない道を歩む、“覚悟”が刻まれていた。
「動物や植物、文字・・・あらゆる絵柄があるんだな」
「お客さんがどのような絵を希望しても対処できるようにね」
ふと、ローはあることを思い出した。
“ホリヨシは師匠の背中に学んだ全てを彫り、それが認められた時初めて、その名を継ぐことが許される”
「・・・・・・・・・・・・」
背中は唯一、自分では彫ることができない場所。
クレイオの身体を持ち上げてうつ伏せに寝かせると、ローの瞳がさらに大きく開いた。
クレイオの背中は───
透き通るような白さの、とても綺麗な肌をしていた。