第6章 真珠を量る女(ロー)
「キャプテン、なんだか機嫌が良さそうだね」
その夜。
宿のベランダでイスに座りながらチビチビと酒を飲んでいたローに、べポが声をかけてきた。
「昨日彫ったところが痒くてたまらねェ。今日彫った手に包帯を巻いているから酒が飲みづらい。それでもお前には、おれが機嫌良さそうに見えるのか」
「そんなに言うなら何で彫ったの?」
「・・・・・・・・・・・・」
べポの疑問はごもっともだ。
ローは返す言葉が見つからず、眉間にシワを寄せながら夜空を見上げた。
「あの女の人って、そんなにいい彫り師?」
「・・・あ?」
べポは船長が腰掛けているイスにもたれかかるように地べたに座った。
機嫌が良いか悪いかと聞かれたら、間違いなく前者の方だ。
少なくとも今は、ケンカを売られても笑っていられる。
「・・・ああ、いい彫り師だな」
「なら、早く終わりそう?」
おれ、退屈だよ! と不満を漏らすべポの頭を肘でグリグリと撫でながら、ローはアルコール度数の高い蒸留酒を口に含んだ。
少し苦くて、熱い。
それはクレイオとのキスにも似ていて、ローの口元に笑みが浮かぶ。
「いや・・・時間をかけるつもりだ」
ゆっくりと、焦らず。
この身体に墨を入れ終える頃には、“答え”が出ているだろう。
ローとクレイオを引き寄せた“力”は、男女の一線をも越えさせるのか。
それとも、ただキスに酔いしれさせて終わりなのか。
いずれにしても、彼女と出会ったことには意味があるように思う。
「やっぱりキャプテン、楽しそうだ」
それがべポには嬉しかったのだろうか。
ユサユサと身体を揺らしながら、船長に甘えた笑顔を向ける。
「・・・お前がそう言うのなら、そうかもな」
ローもまた、透明な氷が浮かぶ琥珀色の酒を喉に流し込み、満天の星とシャボン玉に目を細めていた。