第6章 真珠を量る女(ロー)
「ロー、離して・・・!」
さすがに恐怖を感じたのか、後ずさりをしようとしたクレイオの顔を押さえつけ、逆に自分の方に引き寄せる。
「逃げるな」
「・・・・・・・・・・・・」
あぐらをかいているローと、膝立ちのクレイオの目線はほとんど同じだ。
その手を払いどけようと思えば簡単にできるはずなのに、見えない鎖で縛られているかのように身体が動かなかった。
「おれは昔・・・白い肌という“烙印”を押され、奴隷のように死を受け入れるしかなかった」
今はもう、その白い肌はどこにもない。
ローにとってこの肌は、命の象徴。
そしてこの命は、恩人が遺した愛。
誇りを刺青として刻み、烙印を覆い隠すホリヨシの技術───
「おれがここへ辿り着いたのは・・・」
クレイオの頬を包んでいた手が後頭部にまわり、ゆっくり、ゆっくりと引き寄せられる。
唇まで距離3センチを残して静止すると、つらそうに瞳を揺らした。
「“お前”だったからなのか・・・?」
奴隷達に刺青を施す父の手伝いをしていた少女。
珀鉛病に侵され、目に入るもの全てを壊したいと狂気に溢れていた少年。
十数年という時を経て、二人は出会った。
「───クレイオ・・・・・・」
運命という抗いようのない力に後押しされるかのように・・・
“破戒の申し子”に見初められた少年は、墨で手を染める少女に唇を重ねていた。