第6章 真珠を量る女(ロー)
シンと静まり返る部屋。
クレイオは過去を語りながらも作業を続けていたのに、ローは身体に刺さる針の痛みを一切感じずにいた。
痛みを忘れるほど、彼の意識は今、別のところに向けられている。
クレイオが彫り師としての人生を歩み始めた頃。
ローもまた、逃れられぬ運命に飲み込まれようとしていた
寿命が残り僅かであることを知った10歳。
日に日に白くなっていく肌を、ただ見つめることしかできなかった12歳。
大切な人に命を救ってもらった13歳。
そして彼は今、かつて死を告げる白い斑で覆われていたこの皮膚を、“覚悟”と銘打って真っ黒な墨で染めている。
「───右手は終わり。このまま左もやってしまう? それとも休憩にする?」
皮膚の奥深くに残っている“死の痕跡”を、一つずつ墨で塗りつぶしている。
ああ、そうだ。
痛みはない。
ただ、感じるのは・・・
「ロー? どうしたの、顔色が悪い」
自由。
誇り。
そして・・・
恩人がくれた命。
「吐きそう? 今、氷を持ってくるわ」
痛みのせいで気分が悪くなったのかと思い、氷のうを持ってこようと立ち上がった、その時。
クレイオの腕を、刺青が入っていない方の左手が掴む。
「・・・ロー?」
彫り師の持っていたノミが床に置ちたのと同時に、ローが音もなく身体を起こした。
そして何も言わず、血が滲み赤く腫れている右手でクレイオの頬を包む。
「あ、あまり手を動かさないで、色が“飛んで”しまう」
綺麗に墨を沈着させるためには、早く消毒クリームを塗って包帯を巻かなければいけないのに・・・
どうして触れられているのか分からず、戸惑いながら目を逸らした。
「・・・・・・・・・・・・」
黙ったまま、ジッとクレイオを見つめているロー。
その瞳はひどく思い詰めているようで、そこに涙などないのに泣いているようにすら見えた。