第6章 真珠を量る女(ロー)
「・・・彫り師も、両替商も、私にとってはどちらも大事な稼業」
仰向けになっているローは、首を僅かに動かしクレイオの顔を見上げた。
答えることを迷っているような表情をしていたが、ローと視線が合うとニコリと笑う。
「私はもともと、彫り師になるつもりはなかったの」
「・・・?」
「もちろん、両替商なんて考えもしなかった」
クレイオの持つノミが再び動き出した。
先ほどよりも鋭い痛みに、ローの顔が歪む。
「じゃあ・・・ッ・・・お前は何故、5代目に弟子入りしたんだ」
「弟子入りも何も・・・5代目は私の実の父親よ」
「父親・・・だと・・・?」
10歳になるまで、父がノミを持つ姿すら見たことが無かった。
母はクレイオが生まれてからすぐに死に、父はいつも逃げるように幼い娘を連れてグランドラインを旅していた。
そして、偶然流れ着いたこのシャボンディ諸島で、娘は初めて父の彫り師としての姿を目の当たりにした。
「私達はここである奴隷と出会った。とても美しい人だったけれど、悲しい瞳をしていた・・・すると父は、奴隷の証である“烙印”をつぶすように、その人が望んだヒマワリの絵を上から彫ったの」
“ありがとう、ホリヨシ・・・貴方は私に自由をくれた”
「その人はとても喜んで・・・お礼に世界で一番美しい真珠をくれた」
その真珠がのちにクレイオと父を助けることになろうとは、当時はまだ知る由もなかった。
「そして、私が6代目を継ぐことを決心したのは11歳の時・・・13年前、聖地で起こった大きな事件を知ってる?」
「・・・マリージョア襲撃事件のことか・・・?」
クレイオは静かに頷いた。
ローが命からがらフレバンス王国を抜け出し、ドンキホーテ海賊団に入ってからしばらく経った頃。
聖地マリージョアでは魚人の冒険家フィッシャー・タイガーが暴れまわり、種族関係なく多くの奴隷を解放した。