第6章 真珠を量る女(ロー)
下絵が終われば、今度は上半身裸になり薄い布団の上で仰向けに寝かされる。
なるべく皮膚が伸びた状態のままキープできるよう、手には丸めたタオルをつかまされていた。
「じゃあ、始めるわよ」
「ああ、やれ」
スゥッと一つ深呼吸をして変わる、空気。
この部屋にだけ普段の倍の重力がかかっているのかと錯覚してしまうほど、重い緊張が漂う。
「・・・・・・・・・・・」
チャッチャッ
チャッチャッ
もはや聞きなれた音が響き始めれば、強い痛みが手の甲を襲う。
20分程度で筋彫りが終わり、クレイオは先端に取り付ける針の数を10本に増やした。
ここから先は、描いた円の中を塗りつぶしていく“ツブシ”という工程に入る。
「・・・ッ・・・」
人間の身体とは不思議なものだ。
皮膚の下に張り巡らされた神経には、コンマ何ミリの隙間がある。
その隙間を突かれた時は痛みが無くホッと息をつけるが、その直後に神経の真上を突かれると全身が震えるほどの痛みに耐えなければならない。
前腕の痒みもあり、ローは気を紛らわせるために口を開いた。
「お前はなぜ・・・両替商なんてやっているんだ」
「・・・どうしてそんなことを聞くの?」
「これだけの腕前なら、彫り師としてだけでも食っていけるだろ」
別に質問など何でも良かった。
好きな食べ物、男の趣味、好きな音楽・・・気が紛れるのなら何でも。
それなのに、呻き声をごまかすために出た質問は、クレイオにとって触れてはいけない領域のようだった。
それまでリズムよく動いていたノミが、ピタリとローの肌の上で止まる。