第6章 真珠を量る女(ロー)
「手の平や指のように、皮膚が薄いところは神経が余計刺激されてしまうけれど大丈夫?」
クレイオは昨日と同じ色の作務衣を着て、立てた左膝の上にローの右手を置いていた。
その方が手の甲に下絵を書きやすいという。
「まさかおれが痛がるとでも思ってるんじゃねェだろうな。ずいぶんとナメられたものだ」
「気を悪くしたらごめんなさい」
痛みよりも、昨日彫ったところが痒くて仕方がない。
そのせいでローは不機嫌そうに顔をしかめていた。
手の甲に入れるのは、海賊旗のマークを簡略化にしたもの。
そして、指の第2関節と第3関節の間に入れるのは、「DEATH」の文字だ。
「文字は苦手なのよね・・・」
クレイオは難しそうな顔をしながら、一番細い筆で小指に“D”の文字を描いている。
書体はどうするかと問われ、どうせ入れるのなら思い入れの強いものがいいと答えた。
そこで、名医だった父親からのプレゼントで、初めて読んだ医学書の表紙に使われていた文字を選んだ。
「まァ、読めりゃいい」
「神経質なくせに、よく言うわ」
確かに、クレイオはお世辞にも達筆とはいえなかった。
走り書きとはいえ、ローの要求を細かく記録したメモの字には強いクセがある。
だが、文字も“絵柄”となれば別。
「・・・悪くない」
初めて弱気な言葉を吐くものだから、文句の一つもつけてやろうかと思っていたのに。
出来上がった文字を見てみれば、大きさ、形、間隔、角度、どれをとっても完璧で、指の長さや他の刺青と調和が取れていた。
「つまらねェな、失敗した時のツラを見てみたかった」
「それは私の死に顔を見たいと言っているのと同じよ」
笑っているが、その言葉は冗談ではない。
命を懸ける覚悟で針を突くホリヨシにとって、失敗は“死”を意味していた。