第26章 揺れる心〜愛の逃避行、無垢なる笑顔と恋のlabyrinth〜
「...違うよ」
顔を上げて、はっと目を見開いた時にはすでに遅くて、うるみだす大きな目に釘付けになった。
「チャシャ猫のお兄ちゃんが私を要らないんだよ」
完全に溶けてしまったアイスクリームが、カップに溜まってその上にぽたりと一つこぼれる透明なしずく。
「...なんで、そんな事いうの?」
ぽたりと落ちたしずくが、あんまり綺麗でドロドロになったそれを浄化するみたいに...。
「だってね、ずっと会いに来てくれてないから」
ドクンと音が鳴る。
自分の中で、煩いぐらいに、できる事なら杭でもなんでも胸に打ち込んで音を消したい。歪んだカップに力が入っていく。小さく小さく丸まって、そうじゃないよって言いたいのに言い訳をする。
「そ、そんな事ない。きっと用事かなにかあるんだ」
「用事?」
ぽたりと落ちるしずくは止まらない、テーブルを濡らして服を濡らして、心を濡らしていく。
その涙は自分を思ってのモノだと思えば思う程に、胸が痛くて痛くて、それなのに嬉しいだなんて、クズのゲスの極みで本当にオレなんか死んじゃえばいいのに、なんで生きてんのオレ...。
「そ、そうだレディきっと...きっと...!」
ガタリと椅子から立ち上がって、馬鹿みたいに必死になって伝えたい事があるのに言葉がでない。
オレはここにいるのに、それなのに一歩を踏み出せない弱い弱いゴミクズ...。
「...ぼ...チャシャ猫のお兄ちゃんはきっとレディの事を思ってる」
「....本当に?」
「ほ、本当だとも」
そうだ、僕は、ずっとずっと鈴音を想ってる。
想ってるだけじゃ足らない...。
それなのに、言えない。
どうしてもここに居るって言えない。
力をいれすぎてカップが完全に形を失くす。
僕の弱さもこんなふうに潰せてしまえたらいいのに、言ってしまえ、言ってしまえと急かしているのに、言葉が喉に詰まって吐き出せない。
ギリッと歯に力が入る。
ギリギリと自分のギザ歯がなって、言葉を押し殺す。