第26章 揺れる心〜愛の逃避行、無垢なる笑顔と恋のlabyrinth〜
ふと水槽を見る。
そこにうっすらと映る自分の姿に目を大きく開かせた。
あぁ、そうか...。
ズレたサングラスから覗く目はらんらんと猫のように輝く。
これじゃあ本当に絵本に描かれた猫みたい。
妖しくにやりと笑って駆け出して行く。
多分警察に通報されるレベルの顔をしている。
不本意だし、いつもなら地獄だけど今回だけは違った。
イタジャンを翻して鈴音のあとを追う。
オレは今チャシャ猫じゃない、松野一松じゃない。
オレは今、松野カラ松だ。
鈴音達のいる水槽の反対側から走り出しあとを追う。
鈴音に追いつくには1度ぐるりと大きな水槽をまわらなくてはならない、さすがにそれはあんまり体力のないオレからしたら辛い。
それでもはあはあと息を切らしながら必死に鈴音を追いかける。
途中ソファで眠りこけてしまったクソ松を追い抜かした。
ちらりと横目でそれを見て、なんとも言えない感情を心にしまいこむ。
小さなアリスを追いかけて走るチャシャ猫。
アリスの物語に出てくるチャシャ猫は、本当はこんなふうに一生懸命先回りしてたんだろうか。
ーいっつもニヤニヤしてるんだよチャシャ猫って、ひねくれてるし、でもねアリスのことなんだかんだ言って助けてくれるのーー
笑ってそんな事言ってたっけ?
忘れられない一つ一つの小さな思い出。
やっと会える。
例え本当のオレじゃなかったとしても...。
そう思うと胸が苦しくて、いっぱいで...。
自分を偽ってでも、会えるもんなら会いたかった。
本当はずっと前から、会いたくないフリをしてた。
だって会ったらまた辛くなってしまうのをわかっていたから、でも今回は仕方ない。
鈴音の為だとずるい理由をつけて、本当に卑怯で姑息なやり方。
やっぱりオレってクズでゴミだ。
でも、それでもいい...。
徐々に明るくなっていく視界、もう海の終わりなんだろう。
その先に館内から出ていこうとする小さな背中を見つける。
その背にオレは手を伸ばした。