第26章 揺れる心〜愛の逃避行、無垢なる笑顔と恋のlabyrinth〜
暗い考え事してたら、いつの間にか2人を見失った。広い館内の中を歩き回る。
色とりどりの魚や生き生きと泳ぐ動物達、きっとこんな事がなかったらかなり楽しめてたと思う。
やっぱりクソ松、ひひっ、抹殺決定。
サングラスで顔を隠しながらキョロキョロ見渡すのは、どの水槽よりもドデカい水槽だった。
「...でか...」
その中身に圧倒されてぽかんと口を開ける。
身体に無数の白い水玉を散りばめたその生物は、優雅に水槽を泳いでた。
「...ジンベイザメ」
ほうっとほうけながら見てると、向こう側のベンチに男と女の子が見える。うっすらだけど...。
でも多分間違えない、クソ松と鈴音だ。
ゆらゆらと揺れる水槽の向こう側、行きたいけど行けない向こう側。
手をついて、自分の悔しそうな顔が映ってる事に蓋をし、知らないフリして2人を見つめた。
フラフラしてるように見えるのは、水中を通して見てるせいだろうか。クソ松だけが鈴音よりもユラユラと揺れてる。
掛けられるのは小さなポンチョ、そっと置かれる小さな手、そのすぐ後に駆け出す小さな身体。
それを追いかけようともしないクソ松は、その場でユラユラと揺れていた。
「...え」
目を疑う光景。
まさか小さな鈴音を、クソ松が1人にさせようと思うわけない。さっきまでムカつくほどベッタリくっついてたし、なにより様子がおかしい。
クソ松はどうでもいい、でも...。
もしこのまま鈴音が迷子にでもなったら?
よぎる記憶の中に、泣きじゃくる幼い顔。
それを思った途端に勝手に走り出そうとする足、しかし数秒でピタリと止めた。
でも...。
グルグルと頭の中で自分の汚い部分が顔を出す。
本当に行ってもいいのか、と...。
「オレ...は...」
くるりと方向を変えて、また水槽を見つめる。
会いたくない、会えない...。
チャシャ猫の僕はアリスに会えない...。