第26章 揺れる心〜愛の逃避行、無垢なる笑顔と恋のlabyrinth〜
クソ松の鼻歌が遠ざかって行くのを確かめた後、こっそりとトイレから這い出す。
とりあえず手を洗って、ふうっと一息。
「なんやかんやで助かった...」
心の叫びを代弁してくれたエスパーニャンコには感謝だ。
着替えた時にポケットにつっこんだハンカチを取り出し手を拭く。
「...死ね、クソ松」
よく見なくてもそのハンカチの柄は、クソ松の顔でそれでなくとも気分が悪い。
「絶対殺す」
もうどこへぶつけてよいかわからない怒りを全てクソ松へぶつける事を心に誓いながら、トイレを後にした。
トイレ臭くなるかとか思うくらいトイレにいたけど、無駄に服に染み付いた香水のおかげで気にならなかった。
やっぱりムカつくから殺す。
トイレを出て辺りをみまわせば、黒い革ジャンの奴と小さな女の子の姿が遠くの方で見えた。
すんっと空気を吸い込む。
水の匂い、ホットドッグの匂い、ポップコーンの匂い、クソ松のクソ香水の匂い、そして...。
鈴音の甘い甘い香り...。
クソ松と鈴音だ。
後ろからじとっとその姿を見つめてみれば、二人は仲良く手を繋いでいる。
小さくなった鈴音がクソ松と嬉しそうに手を繋いで歩いてる...。
チリチリと胸の奥深くで何かのやける音がした。
ぶんぶんと頭を振ってその音をきかないように歩く。でもそれは無駄だった。
「どうして、あそこにいるのが僕じゃないの?」
両手で抱き抱えていたエスパーニャンコが、腕の中でオレにとっての暴言ともとれるセリフを吐く。
「あの時の鈴音の隣にいたのは僕だったのに、どうして?」
あぁ、嫌だ。
こんな本音を吐いたって、誰にも届くわけないのに...。
「どうしてあんな楽しそうに、クソ松と一緒にいるの?」
突き刺さる言葉が痛くて、でも止まらないエスパーニャンコの口。
「僕はもういらないのかな...?」