第1章 伝説の始まり
パサリと足元に落ちる髪の束にお嬢さんは目を見開いていた。
素早く私は男から短剣を奪うと、壁に男の手を押し付け短剣を突きつけた。
「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!!!!」
「チッ。あーあ、借り物なのにこの袴…。」
男の返り血の飛んだ袴を見つめ溜息をついた。
「テメェ…鬼か…バケモンじゃねえか。」
「……鬼ね。 草鹿出身者相手にしてその程度で済んでんだからいい方なんじゃない?」
そう吐き捨て、お嬢さんの方を振り返ると泣きそうな顔をしていた。
「え、ちょ、だ、大丈夫!?」
やっぱ一般の人の目の前でこれはまずったかな。
「ごめんね、こんなところ見せて。怖かったよね?」
「っっ、わ、私なんかより!!」
お嬢さんは目の前でワタワタする私の問いかけに、首をブンブンと振っり私の髪に手を伸ばした。
「あんなに綺麗な髪だったのにっ……。」
「大丈夫大丈夫!! 切るタイミングが無くてずっと放置してただけだから。気にしないで!!。」
本当に申し訳なさそうに切られた髪に目を向けるお嬢さんに、私はあっけらかんと言った。
正直、ずっと放置していてなかなか機会が無かっただけだから本当になんとも思ってないし……。
「あ、あの……良かったらうちに寄っていってください。変えの着物はないけど…せめてその髪を切りそろえるくらいの手伝いをさせてください。」
「え、けど……」
「来てください!!」
私の意見を聞かず立ち上がった彼女は手を引いて裏道を縫うように進んでいった。
雑木林の中に立つ納屋のような家に着くと建付けが悪いのか、ガタガタと大きな音を立てて彼女は扉を開けた。
「…お、お邪魔します。」
他人の家に盗み以外で入ったことが無い私だけど、何となくそう言わなければ行けない気がした。
「汚い家ですけど適当にくつろいでください。」
「汚いなんて…私の住んでた所はもっと汚かったから。ここは木のおかげで風も防げるからいいね。」
そう言って感心していると可笑しそうに彼女は笑った。
「ふふっ、そんな風に言ってもらったのは初めてのです。
では、そこに座ってください。これでも髪結所の手伝いをしてるのでそれなりに髪は切れるので。」
彼女に促され木箱の上に座って会話を続けた。
「へー。あ、名前まだ言ってなかったね。
私、仄。
一応死神見習い。」