第64章 original~如何にして個とするか~
ギャァァア
洗面台に思いっきりダイブ。私、水垢とか無理なタイプなんよ……ここの家主綺麗にしてる人でよかった。
「いったぁ……レン!ちょっと!!」
鏡を叩くともう既に元の鏡になっていた。
「ええ、どうしちゃったんスか。そんなところで。」
「うっわー、喜助さんやん。」
「そりゃアタシの家ッスから。手伝いましょうか。」
喜助さんの力を借りてなんとか危機から脱した。
「鏡山さんの仕業ッスね。」
「レンの方です。こうされたら、穿界門を開いても地獄蝶来てくんないから双子のどちらかに頼む必要あるんだけどな。明日レンが駐在か。そんときに戻してもらおう。」
「義骸用意しますよ。」
「ありがとう。」
ってあれ?めっちゃ普通やん。普通に話しすぎて普通やん。
「あ、ポインティさん、ちょっと研究室の方で手伝って欲しいことあるんスよ〜お願いしても?」
「いいよ。」
「すんません片付け追いついてなくて、危険なものは無いので洗浄と整理をお願いしてもいいッスか?」
「そのくらいのことならしますけど……」
洗浄コーナーにたんまりと置いてある研究機材。それを一心不乱に洗っては片付け、洗っては片付けた。
「半分終わったよ。片付け方合ってるか見てもらえる?」
「合ってます合ってます。すんませんね。」
喜助さんはそう言いながら大きな荷物を運んで整理している。
「ポインティさん、魂魄はいかがッスか?」
「……別に、あれから何もないよ。貴方のお陰です。ありがとうございました。」
「肉体も大変だったと聞きました。」
「肉体に戻るなんて言って、後悔した。」
「それで、感情の方は?」
「あー。無いわけじゃないけど、やっぱり波は立たない感じはする。」
「心因性のものでしょうね。」
「……あんまりそう言われたら私が弱いってなっちゃうのでやめてください。この世界と違ってあっちはまだそういうのに寛容じゃないですもん。」
「辛いことあったら、アタシには打ち明けてくれていいんスよ。」
ビーカーを洗う手が止まった。
嬉しいのとモヤモヤが目まぐるしく動く。
「ありがとう。」
喜助さんは私の為にそう言ってくれてるの?それとも、蓮美のことを思って言ってるの?
そんなこと聞けるはずはなかった。