第58章 original〜五月晴れ〜
「なに考えてたんスか〜?奇声なんて上げて。」
「喜助さんっ!?」
居間にいたのは喜助さんだった。
「はやっ!?えっ、はや!?」
「そこまで、空鶴さんの弟さんが来てくれてたんスよ。」
「そ、そうなの、おかえりなさい!」
「どうしたんスかそんなに慌てて。」
「べっ、べつに!」
あぁ、ダメだ顔が熱いよ。やだやだやだ!顔をブンブン振った。
「生姜入の紅茶でそんなになります?」
「喜助さんがこの紅茶になんか仕込んだんじゃないのーっ!」
そう言うと、喜助さんは帽子を掛けながら言った。
「そろそろ……効いてきた頃合ッスね。」
ふぁい!?まじで仕込んだん?!嘘やろ!!!
「……っ!?」
驚きと向陽と少しの不安と期待。いろんな感情が交じっていた。
「なぁ〜んて。嘘ッスよ!」
扇子を開いて私の顔をはらりはらりと仰いだ。
「なんて顔してるんスか?」
身体が熱いのに、寒い。もっともっと温もりを欲している。なにかを越えようと思えば越えてしまえそうなほど、その欲求は胸の中で広がっていた。
「さむい」
「ほぉら、言わんこっちゃないッスよ。窓も閉め切ってしまいますね。」
「さむいよ……」
「じゃあもう一杯紅茶飲みますか?」
ちがう、そうじゃない。あの記憶のような事じゃなくてもいい、少しだけでいいから、喜助さんの腕の中にいたい。それで満たすから。
「人肌恋しいってやつ!」
扇子をギュッと掴んで彼の胸に押し返した。
「私疲れたからもう寝る!」