第56章 完現術篇 転
「守護せよ 花月! 花中転界!」
虚を大きな花が囲った。きっと中では虚の仮面が割れて消えてしまっていることだろう。迷える魂は汚れなき浄土へと導かれる。
完全に虚の霊圧が消えるより先に、ナースのヒステリックな声が耳に響いた。
廊下の奥の階段下で腹の大きな妊婦が血を流して倒れている。ナースはすぐに応援を呼び、応急処置を試みている。ぱっと見た感じ生命に関わるものではないが、私があと一歩早ければ防げたことだ。彼女の、いや彼女の胎児の霊圧をあの虚は狙ったんだろう。
彼女の周りに続々と看護師や医師が集まった。
「柴名さん、しっかりしてください。」
「どうしてこんなところにいるんです?答えられますか?」
「お手洗いの帰り……影みたいなものが、私を襲ってきたんです……」
そう言って妊婦は意識を失った。
「傷口の手当、それからエコーの準備!赤ちゃんの心音も確認するよ!ストレッチャーまだ?!」
慌ただしく彼女が運ばれていくのをみつめるしか出来なかった。
『たまたま虚が生まれた場にあの人が居合わせた。どう考えても間に合いはしなかったと思います。貴方様が深刻になることではないです。』
花月が慰めてくれるが、それでも彼女の身に何かあったらどうしようかと思うと、ストレッチャーが運ばれた先の部屋に足が向いていた。
「胎動に異常はありません。」
「母体の血圧正常です。」
「じゃあ先に母体の検査をしよう。柴名さん、MRIで頭をみるけど、胎児には影響ないからね。終わったらエコーでお腹みせてね。」
その検査の場にずっと私もいたのだが、母子共に異常はなかった。
『胎児の霊力が高いみたいですね。』
「うん。高そう。ポテンシャルを感じるわ。」
『空座町でない限り恐らくはもう襲われることは思います。』
「だといいのだけれど。」
朝焼けの光が病室を照らした。
「ごめん、ささこ?私、空座町に行くわ。任務中なの。」
『かしこまりました!またなにかあれば連絡します!』
「埋め合わせはまた今度するね!」