第56章 完現術篇 転
「ささこ!お母さんは?」
「病室で点滴してる!」
肉体の中に入って病室へと駆け込んだ。
お母さんは驚いた顔をして私を見ている。
「どうした?そんなに大きな音立てて。」
「お母さん、大丈夫なの?」
「さっきも話したじゃない。お医者さんからも聞いたでしょ。」
「あっ、うん。」
後から聞けば、眩暈を起こす三半規管の病気らしい。薬を飲んで様子見ようとのことで、命に関わるものではないとのこと。
「お父さん出張だし、ポインティがいてくれて良かった。」
ささこが居てくれて本当に良かった!!!
「そうだ、お医者さんがポインティのためにタクシー代貸してくれたの。お母さんの財布は家だからね。これで家まで帰りなさい。私は大丈夫だから。」
「うん、明日、必要なもの届けるね。」
病室を出て、夜間出口へと向かう道中。
戦前からある歴史深い病院故に仕方ないといえばそうなのだが、嫌な感じがした。
「ささこ、わかる?」
「整はいますが、重い感じがしますね。」
「お母さんがいるし、このまましておけないわ。ささこ、私の肉体に入って先に帰ってて。」
「最近私に労働させすぎじゃないですか?」
「申し訳なさすぎる。」
「いーです、アイス奢ってくださいね!」
「ごめんね!」
死神の姿となり、自分の肉体を見送った。この感じは近くに虚になりかけの整がいる証拠だ。病院という特性上、重霊地でなくとも霊体がいるのは仕方ない。
「方向的には産科か小児科病棟かな。」
パッパと魂葬してあげて、帰ろうと、走っていったその時、霊圧がぐんっと上がったとに気がついた。私の霊力に刺激されてか、虚になってしまったらしい。患者さんを傷つける前にさっさと片付けよう。
「きゃー!!!」
個室の病室が並ぶ廊下の奥から響いてきた女性の声。虚がいるその場所だ。やっとその虚を目視できたかと思えば、個室の一つの扉が開いてナースが出てきた。彼女は虚が見えない為かなんの躊躇いもなく声のした方へと走っていく。虚は嬉嬉として巨大な右手を振り上げた。