第55章 完現術篇 序
「花月も何かしているそうね。」
「はい。貴方を守る者としての務めを果たしています。そして今、私が貴方にこの刃の鋒を向けているのも同じ理由であります。」
鍛錬でもないのに主人に鋒を向けるとは如何なることか。それを許す訳にはいかない。
「貴方が反省するまで、私は暫く貴方を封じます。」
「ええ、私も主の目が覚めるまでここから出しません。」
水中の空間ではあるが、呼吸もできるし、水の抵抗などもほぼ感じない。走ることも游ぐこともできる。これならば彼女と戦える……が、なによりも彼女にとってはその水が全て自分の味方になる。
もし敵と水中で戦うならば迷いなく水月で攻撃するだろう。彼女は流水系と幻術系の複合型斬魄刀であり、水中においては最強と言えるだろう。それほどこの状況は彼女にとっては有利だ。
「やはり氷月ですか。」
氷月もまた水のある環境では非常に適した斬魄刀だ。水を冷やして固形にし、氷を自分の支配下におくことができる。つまりは水月の水を凍らせてしまえば、その氷が再び溶けない限りは水月の干渉を受けない。
「水月あっての氷月。今、貴方の空間にいる以上、彼女が適任よ。」
そう言って一振すると水が一筋の道を作り凍っていった。そして、その道から触肢を伸ばすように、少しづつ接触している水を凍らしていく。
感度が鈍い。まさか氷月も反旗を翻そうというのか?
「氷月、貴方も気が付いているのではないですか?」
「水月の言わんとすることはわからなくもない。されど、如何なる理由があれ我らが主様に敵意を向けるなど許容し難いこと。例え片割れであっても。わちきは主様につきんす。」
ここでは飛び技は向かない。物理的に彼女を傷つけるのが良い。
水月の攻撃を交わし、時に交わしそこねて、攻防が続く。
「その印の意味、わかるわね?」
「貴女こそ。この氷結印は実態を持たない私には意味を持ちません。」
「ええ、そうね。だけど死なないだけで、ある程度は効くんじゃない?」
縛道で動きの鈍った彼女を縛る。しかし彼女自身も私に向かって波を起こして、近づかせないようにしている。
「氷月!」
氷月がこの世界の水を凍らせていく。そして、彼女はその氷を使って水月の身体を拘束し、格子状の部屋を作った。
「彼女のことはわちきが面倒を見んす。主様は花月の方に。」