第55章 完現術篇 序
「彼はこの力を望む日が必ず来ます。けれども彼にとっての幸せになるかどうかはまた別の話っスけど。」
彼はようやく、普通の人間と変わらない生活を送っている。命のやり取りをするような世界とは縁遠く、平穏な高校生活を送っている彼に、再びこの力を与えるということはー
「こんなこと、アナタに言ってしまうのも違うのでしょうけどね。」
「私は……」
口を紡いだ。何かの拍子に霊力を失い、普通の女子高生になれたら。そして再び死神の力を手に入れられるようになったら、どちらの生活を選択するか。
いや、私はどちらでも構わない。私は私の大切な人の傍でいることができるのなら、なんだって構わない。
そういった時に頭によぎったのが目の前にいる男性だった。
あれ、おかしいな、私にとって恋人といえるのは秀さんのはず。それなのに、目の前にいる人に対して湧くこの感情は?その感情の名前は愛しさだとか、そういうものだということはわかる。でも、なぜ?彼に対して?
『ポインティ様、少々お時間よろしいでしょうか。』
ウェーブがかった深海色の髪の毛の美しい女性が現れた。彼女は私の斬魄刀、水月だ。風月とは違い、こうして自ら具象化してくるのは珍しい。
「水月っスか?美人さんっスね〜。」
「あまり主人の気を狂わせないでください。少し我が主と話をする必要があります。」
「どうぞどうぞ。」
「話ってなに?」
「それは向こうで。」
水月がそういうので、私は目を瞑った。
マリンスノーが降る深海の底のような空間。大きな貝がらに優雅に座る人魚は私に対して冷ややかな目を向けている。
「水月、急にどうしたの。」
「情けないです。」
大きな溜め息をついて、そう言った。全く状況が飲み込めない。
「花月貴女も気付いてるでしょう。」
すると、大きな鏡が揺らめき、花月を映した。
『えっ、うん、』
「じゃあどうして排除しないのですか。」
『だって、害のあるものかわからないし。』
「肉体に影響を及ばさないにしても、害のあるものでしょう。ほらとっとと外に出しなさい。」
『わかったわ。』
鏡が消えて、水月は私へと視線を移した。
「ポインティ様、貴方の想い人は月島などではありません、」