第54章 original~反実仮想篇~
「崩玉」
その言葉を言うと小さく頷いた。
「以前見せましたね。その通り、この症状を制御することもできるでしょう。しかし……」
喜助さんがちらりと見やる。
2つの虚は身体がふくふくと膨れ上がり、ドロドロに溶け、遂には服を残して身体が消えた。
「魂魄が耐えきれない様子はありました。魂魄自殺ッス。処置は間に合わなかったでしょう。悔しいッスが……。いえ、ですが魂魄消失案件について進展しそうッス。次の犠牲を出さぬよう対策する他ありません。」
間もなくして隠密機動がやってきた。総帥である夜一さんも同行している。
「状況は理解した。魂魄消失案件と死神の虚化。厄介なことになったのう。」
「僕も身の振り方を考えなければならないようです」
「身元判明次第、生前の動向を探ってみる。なによりも面倒臭いのが……ポインティの鬼道じゃよ。これだけお主の霊子が散らばっておる。これが上の目にどう映るかよ。」
「夜一さんにも見せたかったッスよ。九十番台詠唱破棄するポインティさんの姿を。」
「惜しいな、護廷隊士ならば貴重な存在であるのに。」
「そう褒めて頂かなくても〜。」
「お主らはもう戻って構わん。」
隊舎内は忙しなかった。隊長が事件に巻き込まれたらのだから無理はない。それでも寝る時間を割いてまで私の所へと来てくれた。
「貴女が同業者に見えました。」
喜助さんは開口一番そう言った。私の向かい側に座る。
「例の記憶の件ッスが。」
「うん。」
「病気というには特殊ッスからね。こうだと言えるものはありません。」
「そうかぁ。」
「ひとつの可能性として。貴女が知るはずのないことを知っているということは、何かの干渉によって誰かの記憶と混合してるかもしれません。前例は無いッスけど。」
「だとしたら、死神だと思う。」
「現世に通ずる死神でしょうね。少し前から貴女の思考が現世基準になってます。お気づきでしたか?」
現世基準?思い当たる節が無くて首を横に振った。
「簡単な例をあげると、現世の日本における地名の基準。"関東"よりも"関西"を贔屓にしているような所が見られます。さらに、芸術や言語といった現世の知識。」
「クラシック音楽や英語の知識のことね。」