第54章 original~反実仮想篇~
「お嬢さん、お嬢さん。」
私を呼ぶ声がした。その声は神社からだった。
「時間あるかい?」
しゃがれた老婆の声が鳥居の向こうから聞こえて来る。
ここの人だろうか。そういえばここの辺りで老人会の人が朝、掃除をしているのを見た事がある。
「特に急いでるわけではないですよ。」
「じゃあ、こちらに寄らないかい?」
人手が必要なら貸さないわけには行かない。
「いいですよ。」
鳥居を潜って、おばあちゃんの姿を探した。
「何をしたらいいですか?」
「おまえさん、名前はなんと言う。」
「佐伯です。」
「下の名前で呼ばせてほしいねぇ。」
「ポインティです。」
「ポインティちゃん、そうかそうか、良い名前じゃ。」
声は近いのにおばあちゃんの姿が見当たらない。
カァカァと烏がなく声が遠くで聞こえる。
「おばあちゃん、どこにいるの?」
「ここじゃ、ここじゃ、声のする方へ、」
「おばあちゃんめっちゃ大きな声出してる?」
と笑いながら神社の隣の林へと向かった。
「そう、そのまま、蔵の方へ来てくれや。」
「蔵?片付けでもしてるの?」
「そうさな、片付けだな。」
湿っぽい空気が肌につく。白いモヤがだんだんとかかり、林は鬱蒼と生い茂る草木のせいで朝日が届かず、夜のように暗いけれど、恐れはなくて、声に導かれるように足を動かした。
木でできた蔵の前に立つ。ここまで来るのに体感では長かかったが、振り返れば20m先に鳥居があり、蔵には窓があるため、声が聞こえたのは不思議なことではないんだろうと思った。
「ありがとな、来てくれて。助かったよ。」
「開けてもいいの?」
「あぁ、少しだけまっとくれ。」
来いと行ったのに待っててと言われるとは。
「若いのはいいの。」
「そう?」
「これから沢山のことを経験できるんじゃ、たくさんの思い出ができるのが羨ましいなぁ。」
「思い出に関して言えばおばあちゃんより沢山あるかも。だからさ、あの時に戻りたいとか、あの頃の方が楽しかった……とか思っちゃうんだよね。もう戻れないのに。」
「年寄りみたいなことをいうなぁ。」
「ははっ、たしかに。」
「時は遡れない。しかし、その思い出に浸ることはできる。」
「……ううん、あんまり覚えてないの。思い出って言えるのかもわかんない。」