第54章 original~反実仮想篇~
「なにそれ?」
雨が机にそれを置く。
先に反応したのは喜助さんで、私もそれは見覚えのあるものだ。
以前、雨が見せてくれた写真。喜助さんが尸魂界から離れる際に唯一持ち出したもの。
「そうそう、こんなのも残せちゃうんだからね。」
桜の木の下で微笑む写真の中の二人は誰が見ても幸せそのものだ。
「お花見の時の写真。」
「えぇ。これは、アタシが隊長になり、初めて花見をした時のっスね。十二番隊の隊舎内で宴会したんっスよ。」
「そうなんだぁ。」
どれだけ頭を働かせても思い出せないのが悔しくて悔しいて、うんうん唸っていた。
「はぁぁ、こんなことになるなら、写真処分しなきゃよかったな。」
「霊法旧一〇四条が適用されていましたからね。身辺整理ができてしまって当然です。」
霊法旧一〇四条というのは、所謂"生まれ変わり"に関する法である。通常、転生許可が下るには最低六十年という歳月がかかり、その後具体的な段取りを決めていくことになる。
しかし、現世と尸魂界の魂魄の質量の均衡が乱れた際、中央四十六室と護廷隊総隊長及び王族特務零番隊の合意の下で行われる緊急措置があった。それが霊法一〇四条。転生許可申請中の者のうち、霊法一〇四条の適用を希望する者は、諸々の行程を省略し、転生させることができた。しかし、白羽の矢が立てば拒否できるものではなく、たった5日後に、たとえ拒絶しても強制的に魂を昇華されるのだ。
告知から昇華までに時間が僅かなため、保障として適用希望者は生活の保障がされた。治安の悪い地域出身でも、十地区以内に住居を貸し与えられ、十分生活できる額を給付される。その制度の存在を知る機会がないような地域が大多数だが、それでも一時の富のため、ここで出来た家族のため、制度を利用する者もいた。
数十年前までは現世において世界レベルの戦争、飢饉、感染症などから死亡者が多かった。均衡が崩れる前にと、先手を取って措置が取られることもあったが、ここ数十年、厳密に言えば第二次世界大戦後からは比較的均衡が保てていることから、霊法は撤廃された。
そして、"私"が現世に送り込まれた時の状況から、その制度を利用したことは予測できる。